前回は『息』についてお話しました。今回は『自分の内側を見て行うこと』についてお話しようと思います。一体どういう事なのでしょうか。

緊張してその結果パフォーマンスに悪影響を及ぼしてしまったことは私も何度も経験しています。その原因の一つに「余計なことばかり考えてしまった」「周りが気になって自分のことに集中できなかった」という理由が挙げられます。特にコンクールやオーディション、入試なども同じです、そういった場ではなかなか自分のすべきことに集中しきれないということも起こります。集中すれば良い、と言いますが具体的にはどうしたら良いのでしょうか。
そこで大事になるのが前回お話しした「息」です。深くゆっくりした息、特に長く吐き切りそのあと自然に吸っていく呼吸は「自分の内側に意識を持っていく」ことにつながります。仏教の座禅の世界では静かに座ってこの「自分の内側を見つめる」作業のことを「内観」と言います。演奏などのパフォーマンスをするときには、深い呼吸で自分の内側を見つめて(準備をして)そこから先へ進んでいきます。今日の本題です。
それは「まるで今自分が演奏しているかのように、はっきり、リアルに、ゆっくり、じっくり頭の中でイメージする」ことです。これは楽器を吹いていない時間にこそ役立つ集中の仕方です。周りに強者たちが、ライバルがたくさんいる、皆最高のパフォーマンスをしようと必死だ、どの人も自分よりうまく聴こえる、どうしよう、、、、無限のネガティブループです。そのような思考をする必要がないように、頭の中をコントロールしてあげるのです。モーツァルトのオーボエ協奏曲を例にしてみましょう。
この曲は、一番初めがもっとも肝心です。勢いよく、ご機嫌なテンションで、最高のオープニングとしてトリルと音階を駆け上がっていき、高いCで飛び立っていきます。が、そこにいくまでにもとても大事な部分があります。前奏部分です。華やかに始まります。どんなテンションで進んでいますか?オーケストラでもピアノバージョンでも構いません。それを聴きながらどんな気分ですか、どんな呼吸で聴いていますか、軽快で華やかな、どこまでもご機嫌な音楽につられて体が動き出すのも良いでしょう。そのとき、あなたの足裏感覚はどうですか?大地にしっかり根が張っていますか?そしていよいよスタートが近づいてきました。しっかり息を吐いておいて、どのタイミングで息をすうーッと吸いますか、吸う息の長さは?4分音符ですか、2分音符ですか?最初の「ド」の音はどれぐらいはずませますか、続くトリルの速さは?何回トリルをしますか?「シ」から始まり駆け上がっていくC–Durの音階、まるで真珠のように連なっていく音たち、全て同じ吹き方ですか、それともどれかの音に重点をおきますか?舌をリードにつく強さはどれぐらいですか、駆け上がった先の「輝かしいCの響き」はどんな色ですか?あなたの気持ちはどんな色ですか?それを表すためにビブラートをどんな形でかけていきたいですか?
キリがありません。これぐらいにしておきましょう。
文字だけで表していますが、実際にこれを試してみると結構「自分の内側を忙しくする」ことができます。これだけの感覚とイメージを働かせると周りの雑音はあまり気にならなくなります。そしてそれができるためには「実際に楽器を持っていなくても、吹いていなくても鮮明に感覚をイメージできるぐらい準備をしておくこと」が大事になってくるわけですが、オーディション、入試、試験などではもう散々練習してきて暗譜もしているでしょう。それならばなおさら頭の中でできる限り鮮明にリピートしてあげていけば、それが集中につながっていきます。私はよく、本番前や、試験、オーディションへ向かう道すがらこれをやっていました。会場に入ってもです。急に次の日オーディションに向かうことになった当日の早朝の電車の中、ひたすらそのトレーニングをしていました。そして結果とても良いパフォーマンスができました。どうせ緊張するんだし、うつむきながら不安な気持ちで会場に向かうぐらいなら、その時間の頭の中をこのようなイメージトレーニングでいっぱいにしてあげてはどうでしょう。
そして今回はたった一人で勝負する、周りはライバルだらけ、という過酷な状況に絞ってお話ししました。(スポーツの個人競技の世界と似ていますよね)オーケストラや室内楽の本番は、周りはみんな仲間です。周りは敵だらけという場ではありません。けれど、自分のことに集中するという点では同じかな、と思います。
ちなみに、もう一つポイントがあります。そのイメージトレーニングをしているときに「口の両端をほんの少し上げてみてください」口角を上げるということです。これは自然な微笑みに繋がっていき、気分も自然に上向きになってくるはずです。試してみてください。
受験シーズンが始まりますね。というわけで、今日は緊張して集中できないときに、私がやっている方法、どうやって意識を自分のなかに持っていくのかについてお話ししました。今日も最後まで読んでくださってありがとうございます。
Viel Spass und Freunde am musizieren!! 音楽に楽しみと喜びを★