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【呼吸法とイメージ(トレーニング)】これが予想外の状況で役に立った話

※閉所恐怖症関連の内容です。ご注意ください。

今日は、オーボエの話ではありません。しかし、普段から意識している「呼吸法」「イメージ(トレーニング)」が思わぬ場面で役に立ち、改めてこれらの要素の大切さを感じた、オーボエの演奏でもこの要素を大事にする意味があると再確認した、というお話です。

先日、MRIを撮りました。随分前になりますが、一度「脳」の写真を撮ったことがあるので直前のチェック欄にある「閉所は大丈夫か」という質問にも全く問題ないことを記しました。いざ、頭部と上半身を固定されて機械に入ったら、その狭さ「出たくても出られない」という恐怖と間もなく始まった「轟音」に驚きました。途端にパニック状態になってしまった私、、、。腕を振り上げることができないのでNOサインも出せず、余計に暴れ出してしまいそうになり「スミマセーーン、ちょっと!!!!無理ですーーーーーーーー!!!無理です!!!無理でーーーーーーす?」と叫び続けてしまいました。数分も保ちませんでした。出てきた時に技師さんに平謝りをしましたが、無視されました(泣)。そりゃそうですよね、事前のアンケートで「大丈夫」と書いていたのですから。しかし自分が閉所恐怖症かもしれないなんて考えたこともなかったのです。

思い返せば、、、。ドイツと日本を行き来する長距離国際線の飛行機内でも、全席埋まった窓側は好きではなく、自由に立ち歩ける通路側を選び頻繁に後方部のCAさんたちがいる所に行き、窓からシベリアのツンドラを蛇行している川を延々と眺めたり、飲み物を飲んだりストレッチをしたりして過ごしていたのでした。映画を見ていたり運よく寝てしまえるときは良いのですが、狭い所に意識してじっとしているのが苦痛なのかもしれません。

話を戻しましょう。お医者さんと話し合って早速次の日にMRIのリベンジを行うことにしました。眠るまではいかないが鎮静剤を打ってもらうこと、目を瞑ること、体は縛らないことなどを試してみることにしました。その結果はどうなったでしょうか。(オーボエの話とはかけは離れているように思えますがもう少しお待ちください、そのうち納得していただけると思います)

次の日、リベンジすべく処置室にいる私。鎮静剤を打ってもらい、点滴をぶら下げて待機していましたが、一向に眠くなりませんし、目はギラギラです。あぁ、、、だめだ、鎮静剤も全く効いていない、、、。もうこれは目を閉じて広い所にいる自分をイメージして、あらかじめ考えておいた「音楽」を脳内演奏し歌い続けるしかない。前日に考えていた曲たちは「ボレロ」「何かしらの唱歌」です。「ボレロ」は15分かかるけれど、だめだ、どこでどの楽器が登場するかわからなくなったらパニクリそうだ、しかもあのスネアドラムのリズムは気持ちが落ち着く効果があるとは思えない(苦笑)。そこで私が選んだ唱歌は「赤とんぼ」でした。台に上がりかけた時にもう目を閉じました。ここから先は皆さんも想像しながら読んでいってください。

とてもゆっくりのテンポで(例えばLargo)できるだけ低い音域の声で歌い続けよう。1番が約30秒かかるから3番までゆっくり歌って約1分半。それを20回も繰り返せば終わる。「私」は広い場所にいる。田園風景だ、ねえやがおんぶしている「私」は赤とんぼを見つけて目で追っている。その時の「私」の呼吸はとてもゆっくりで深いものだ。しっかりと吐き切って少し吸ってまた歌い続けよう。15でねえやは嫁に行ったんだ。竿の先に赤とんぼがまた止まっている。ああ、そうだ、三木露風はこの赤とんぼを北海道の広大な景色に見て、故郷の兵庫県龍野市を懐かしく思うんだ。

体は縛られていないので手は動かせます。リズムを取り続けよう。足も足首から下は動かせるだろう(ある程度の体の自由は効く、と自分に思わせる)。途中で左の手が思いがけずMRIの壁面に当たってしまいました。途端に狭い所にいることを思い出して目を開けてしまいそうになったので、「大丈夫、息をゆっくりと吐いて、ゆっくりと吸って?ゆうや〜けこやけ〜の 赤とんぼ〜」わりと大きな低い声で歌い続けました。轟音が鳴り響いても歌い続けました。自分の声が聞こえる程度の声量で。

何回繰り返したでしょうか。「終わりですよー、お疲れ様でした」と言われて私はやっと解放されました。MRIから完全に出るまで目は閉じたままでした。成功しました。

今回のことで、私は閉所恐怖症かもしれないということがわかったわけですが、それとは全く違った視点から大事なことに気づきました。ゆっくりと落ち着いた呼吸法ができること、イメージ(トレーニング)ができること。MRIという特殊な状況下でその力を発揮できたということ。そして「呼吸法やイメージ(トレーニング)が演奏の場面において非常に重要な要素なんだということ」を改めて確認できたのでした。

気持ちが昂って緊張してどうしようもない時、意識はどこにあると思いますか?外側にしか向いていません。周りが気になって仕方ない。オーディションやコンクールで周りの全員が自分より上手く聴こえる。周囲の状況に左右されて自分のことに集中できないことが最大の問題です。そんな時に、息を少し吸ってゆっくりと深く吐く、同時に目を閉じて眉間に意識(視線)を集中して息をどんどん深く最後まで吐き切る。そして自然な形で息を吸って目を開ける。それだけで意識は自分の中に戻り(内観の一種です)落ち着きが取り戻せます。視点は一点に集中し表情は柔らかい。続いて自分が今やるべきこと、例えば「モーツァルト・オーボエ協奏曲」の出だし部分を細かく鮮明に思い描く。指の動きからメロディの流れ、ピアノの音、どんな息の感じでどんな色合いの音たちを繋げていく?

ここまでできたら、あとは「預けて」「楽しんで」みよう。あなたならできます。

今日も最後まで読んでくださってありがとうございます。Viel Spass und Freude am musizieren! 音楽に楽しみと喜びを★