明けましておめでとうございます。昨年は私のブログを読んでくださってありがとうございます。今年もオーボエのこと、ドイツの暮らし、音楽について、リードのことなど色々とお話ししていこうと思います。
ドイツで音楽を学んで本当に良かったと思うことがあります。それは「教会で演奏する」機会に多く恵まれたことでした。

バッハの特に合唱曲は宗教曲であるという事が最も大事になるのですが、そこから広がるカンタータやオラトリオなど、オーケストラ楽器の加わったものも、教会という環境で生まれて演奏され続けてきて季節ごとの教会行事とともに受け継がれてきました。それは今も変わらず日常的に演奏されています。クリスマスの一ヶ月前になると各地でクリスマス・オラトリオが演奏され、復活祭の時期になると受難曲が演奏されます。こういった、宗教・伝統・文化を教会音楽を通じて肌に感じることができる、そしてそんな環境に身を置かせてもらえた事にただただ感謝の気持ちしかありません。私が学んだドイツ北西部の小さな町デトモルトでは、学生の頃からあちこちの教会で演奏する機会が多く、現場でその空気を感じて学んでいける素晴らしい環境の整った町です。

毎週日曜に教会ではミサがあり、オーケストラと合唱が入った演奏会形式のミサも頻繁にあるのですが、その中で忘れられないミサがありました。2011年3月11日の東日本大震災の後にあったミサです。パダボーンという隣町の教会であったのですが、日を追うごとに明らかになっていく惨状、ドイツにいて何もできない自分、それでもオーケストラの仕事をこなしていかないといけない現実、どうしてよいか分からず、まるで体と心が離れ離れになっているような状態でした。そんな中、ミサが始まり神父さんのお話になりました。神父さんは大震災で亡くなった方々への哀悼の意を示され、まだ行方がわからない多くの方々に1日も早くご家族のもとに帰ってこられるよう教会全体で心からお祈りをしましょうと話されました。
教会全体が沈黙と静寂に包まれました。外の鳥のさえずりが聞こえたような気がします。ああ、これが祈りなのだ、と私は心の底から思いました。黙祷が終わり神父さんは引き続き大震災のことに関してお話しされていました。私は涙が流れるのをどうしても止める事が出来ませんでした。演奏中も涙が流れ続けました。悲しいのと皆んなが祈ってくれる事に心を打たれたのと色々な感情が浮かんできました。私は宗教や神様に関して深く理解しているわけではありませんが、教会と教会音楽の役目というのを少し分かったように思いました。私たち自身の思い、それが祈りとなり温かい心と心が繋がっていくのだ、そこに音楽は寄り添ってきたのだ、と感じました。
そして今は、私がドイツで学んできた事、得てきた事、思い、これらをここ故郷で私なりの形で表せていけたらと思っています。日本は自然災害の多い国で近年も毎年のようにあちこちで災害が発生しています。直後は復旧・復興が最優先で、生きるという基本の柱を立て直さないといけません。そしてそれにはとても長い時間がかかります。それでもいつか、ふとした時に楽しい気持ちになれる、優しい気持ちになれる、癒される、声を出して歌って気持ち良い、そんなポジティブな事や、鎮魂、祈り、願い、希望、そんな思いを抱いた時に必ず音楽は寄り添える存在であると信じています。
今日はこのへんで。2020年が皆さまにとって健康で素晴らしい年となりますように。
Viel Spaß und Freude am musizieren! 音楽に楽しみと喜びを★(2020年1月4日)