1年か2年に1度、リード材の買い付けのために北イタリアへ行きます。電車での旅はミュンヘン経由で片道12時間ほどかかります。ミュンヘンから乗る電車からの眺めは素晴らしく、南ドイツの田園風景を楽しんだ後、アルプス、チロル地方と美しい景色が続きます。(写真は2018年8月に訪れた時のもので、アルプスからオーストリアのチロル地方、トレンティーノ地方特有の切り立った山々です)今年は初めて車での旅だったのですが所要時間は片道9時間ほどでした。鉄道で見られるような美しい景色はあまり多くありませんでしたが、旅の時間が3時間ほど短くなるのはやはりありがたいことですね。ドイツ・アウトバーンの効果でしょうか。リード材のお話に戻りましょう。いつもお邪魔しているお店の方とはかれこれ10年近くのつきあいがあります。オーボエのリードを作る材料は、葦(あし)という植物が使われていて、クラリネット、サクソフォン、ファゴットのリードもこれと同じものが使われています。葦の代表的な産地は南フランスです。私が訪れいてるお店も、南フランスで葦を生産されていて、北イタリアにある工房で加工されています。葦がリードの材料として実際に使われるまでには数年間という年月がかかります。収穫、乾燥、カット、これらの工程を経てやっとリードの材料として売られるわけですが、その工程とかかる時間、またその年の気候によって出来が変わってくるという点で、ワインととても似ていると思います。


北イタリア、トレンティーノ州の州都トレントは歴史ある美しい街です。四方を山々に囲まれていて夏はキャンプにサイクリング、冬はスキーでも人気の観光地です。そしてイタリアといえば食!リード材の仕入れがメインですが、イタリアに来たからには美味しいピザやパスタ、ワインなども楽しみたいですね。写真は、トレントの宿の窓辺から見た中央広場と、広場のレストランでいただく食前酒です。


綺麗な景色と美味しい食事と飲み物を楽しんでいよいよ次の日はメインの材料の仕入れです。大量の材料が目の前に出されてきて、その中からひたすら目を凝らしてより分けていきます。

この地道な作業を、北イタリアのこの工房を訪れるたびに一日中することになります。工房にはお店のご主人と従業員さんと、私。年によってはお友達が一緒の年もあり、今年はオーボエの生徒さんと学生さんと一緒でした。みな真剣そのもので言葉数は多くありません。静かな音でイタリア語のラジオが流れています。2時間ぐらいしますと、ご主人のお母様がいらっしゃいます。もうご高齢なのですが、毎回お元気な様子で、決まって「こんにちは、お元気?そう!よかったわ、また来年ね」というふうな会話を交わすのが恒例となっています。お昼時になると、工房から歩いて10分ぐらいのこの町の食堂に行きます。ここのシェフはローマ出身で特にカルボナーラが美味しいと聞いているので、毎回このカルボナーラをいただきます。濃厚な、けれども無駄な味が一切ない、素朴でとても美味しいカルボナーラです。

さて、お腹もいっぱいになったところで、また材料よりわけの作業再開です。夕方までひたすらに作業をして、17時ごろに終了。バスでトレントの宿へと帰ります。この数日間の北イタリアへの旅は、私のオーボエ人生、リード職人としての人生にとってとても大きな、そしてキラキラしていて、なぜか懐かしく感じて心があたたかくなる、そんなとても大切なものです。今は日本にいますが、また伺えたら良いなと思っています。みなさんが変わらずお元気でいらっしゃること、また笑顔で再会できるのを楽しみにしています。
