リード職人の私がいうのもなんなのですが。オーボエを演奏していく上で、リードはアイテムの一つにすぎません。あくまで楽器の一部です。もちろんアイテムの質は良いに越したことはありません。
だけど。
それよりも大事な事があると私は思います。今日のテーマです。
目の前でオーボエの演奏を聴いていたとします。良い音だな、良いリードなのだろうな、というのは多くの場合最初に耳に入ってくる、気がつくポイントになるでしょう。そしてそれは時間と共にさほど重要でないポイントになります。目の前の奏者が楽器と自分の体を使って「何をどううったえているか」、そしてそれが「どれだけ聴いているこちらに伝わってくるか」というポイントに移っていきます。その結果、「いい音だったよね」だけなのか、「いやあ、音楽が伝わってきた!好き嫌いは別として強烈に印象に残った!」という記憶が残るのか。結局、楽器のアイテムの一つであるリードは「音楽を伝える道具の一つ」であると私は思います。聴いてくださる人々は演奏者の「音楽」に耳を傾けてくれているのです。
リードが良くないと伝えたいことも伝えられない。こういう考え方もあります。これは「何を持って良いとするのか」の基準がポイントになります。私は「リードは最低限の機能をクリアしていれば良い」と思います。それは、何度も書いていますが、「安定した音程」「適度な振動と開き(張り)による幅の広いダイナミック」「発音がスムーズにいく」というものです。そしてこれらの項目は全てを完璧に仕上げるのは確かに難しいかもしれませんが、逆に言えば、とても具体的で物質的な項目なのでわかりやすいとも言えます。音色、明るい、暗い、いい音かどうかなどは前述の項目を達成した上でおまけでついてくるものであり、演奏者によっても大きく異なってきます。初めからこれらの抽象的な項目にこだわりすぎると大事な機能の面を置き去りにしてしまうリスクがあります。音程が悪い、発音がスムーズにできない、となっては演奏自体が困難になってしまうからです。
おっと、ついついリードのことになると文字数が多くなってしまいますが、今日のテーマはリードではありませんね。
管楽器で音楽を伝える上で最も大事なのは「息」であると思います。
私が一度に多くのオーボエの演奏を目の前で聴く機会があったのは、ドイツ・デトモルト音大のオーボエクラス(学生の時、講師をしていた時)、そしてオーケストラのオーディション(自分が参加する場合でも、オーケストラ側で聴く場合でも)でした。オーディションの場合は強者たちが集まっているので、例えとして用いるのは音大の方が良いでしょう。

デトモルト音大ではクラスの発表会などで、大学のホールのステージに立って演奏するという機会が2週間に一度ぐらいのペースでありました。特に、講師をしていた時は発表会の後に必ず全員の講評をする必要がありました。具体的に良かったこと、改善すべきことを挙げ相手にわかりやすく伝え、必要があればそれに対して他の学生も加わりさらに議論する。その時に技術的な面では「健康的に息が吹き込めているか」「息がきちんと演奏に反映されているか」「楽器と体が一体化しているか」という視点で聴くのですが、目の前で聴いていると(見ていると)良くわかります。自分も一緒に吹いている感覚で聴くからでしょう。誰かが目の前で演奏している様子を見て、気持ちよさそうに吹いているなあ、苦しそうだなあ、という感じを皆さんも持たれると思います。それと全く同じです。そしてそれは「息によるところがとても大きい」のです。
そして、最も大事な「息」を充実させ反映させる為に必要なのは、それを支えるアンブシュアを保つ力です。
これについては以前の記事 【オーボエ奏法】3つの大事な「支え」その①アンブシュア ですでに書いていますので参考になさってください。これらの要素が前面に押し出されていく中で「私はこう表現したいというパワー」が溢れてきます。その欲求にリードは応えていくようになります。したがって演奏者の「息」と「支え」と「思い(パワー)」などの要求によってリードは変化、進化していくのではないか。だから、オーボエを通して音楽を表現していく上で一番大事なのは「息」であり、リードは自分の思いを伝えるためのアイテムの一つにすぎない、と私は考えるのです。
なぜなら、オーボエは管楽器、息を使う楽器だからです。
色々と書きましたが、私自身にもそのまま跳ね返ってくるテーマでもあるのです。何か上手くいってないな、なんだか吹きにくいな、そう思った時、ふと立ち止まって改めて考えるのは、息のことであって、やはり息が一番大切なんだ、と思った事が何度もあるからです。そしてそのことを皆さんにも聞いていただきたく、本日のテーマに選びました。
今日も最後まで読んでくださってありがとうございます。
Viel Spass und Freude am musizieren! 音楽に楽しみと喜びを★
(2020年10月18日)