オーケストラの同僚Mに「Masako、リード作りが得意で好きならリードを売ることも考えたらいいじゃん?試しに僕が教えている音楽学校のちびっ子オーボエプレーヤーたちのためにリード作ってよ」一体どうなるのでしょうか...
ドイツでの生活と歩んできた道のりが自分のオーボエリード作りの技術の礎になっています。そんな七転び八起きな経験についてお話ししていきましょう。第4回目です。

私が働いていたオーケストラの同僚M(3番&1番オーボエ+イングリッシュホルン、要するにオールマイティなポジションです)は、その陽気なキャラクターでオーケストラの人気者でした。金管アンサンブルの指揮者だったり中高生を招いて行う「ティル・オイレンシュピーゲルの鑑賞会」では抜群のセンスでMCをしたり音楽学校で教えたり...とにかく多才で多忙な人でした。リード作りが苦手で嫌いというので、私は同僚Mのためにリードを作って売っていました。

とても器用な同僚Mは、とにかく機能がきちんとしていれば瞬時に彼のアンブシュアと息圧でリードを自分の色に吹きこなしていました。
リードの機能がきちんとしていれば、奏法やスタイルが確立している人はすぐに吹きこなすんだな...とその時思ったのを覚えています。
話を元に戻しましょう。

そんな同僚Mが教えている音楽学校のちびっ子オーボエプレーヤーたちのためにリードを作ってよと言われた私です。「鼻息でも吹けるようなリード」.....
何日か後に同僚Mに「鼻息でも吹けるようなリード」を渡しました。少し吹いた同僚Mは「うーん、重すぎ!Masako、これじゃあちびっ子は吹けないよ。小学校低学年の彼らには抵抗感のあるリードはストレスでしかないよ」
えー、これで重すぎるの?難しい...
数日後...さらに軽く仕上げた「鼻息リード」を同僚Mに渡します。彼は「うーん、まだ重すぎるね。Masako、君が吹けるリードではなくて、ちびっ子たちが吹けるリードだよ」
むむむ... そのつもりなのだよ... なぜこれが重いのだ...

そのようなやり取りを続ける中で分かったことがあります。私は、自分の基準でリードを作ることしかできない。自分が吹いて良いと思うものしか。この場合はそうではなくて、アンブシュアの力も体力も体格も全く違うちびっ子たちにとっては「いかにストレスなく音が出せて、しかも音程が難なく取れるリード」が必要なわけで「この際音色は関係ない、ちびっ子たちは音色なんて気にしていない、どれだけ楽に、楽しんでオーボエが吹けるか」というのが大事なのです。
これは極端な例ではありますが、リード作りを本格的にするならば色々なタイプに対応していく必要があるという事を学び始めた最初のきっかけでした。そんな「鼻息リード」はその後進化して、今ではかつての同僚Cの音楽学校の生徒さんたち(これまたちびっ子プレーヤーたち)のためにも製作しています。

【独歩】私とドイツとリードの話...まだまだ続きます。次回は少しリードのテーマから外れて「私がオーケストラの仕事を通じて学んだこと」などなど...書いてみようと思います。どうぞお楽しみに!
※今回は極端な例で「鼻息リード」について強調していますが、もちろん私の工房では様々な吹き心地のリードを作っています。材質(音色に繋がる)を厳選し機能を重視するというスタイルです。
※独歩ーーみんな大好き岡山の地ビール(私も大好き)という意味ではありません。ドイツの意味と地道にコツコツ努力してきたイメージ(独立独歩)を重ねています