前回のお話では「支え」のことだけで終わってしまったので、今日は三つ目の「呼吸」についてお話ししようと思います。
すでに他の記事で「息、呼吸」についてお話ししているように、私は管楽器奏者にとって最も大事なことは「呼吸、息のコントロール」だと思っています。(そしてオーボエは基本的に「息の余る」楽器です。吹けば吹くほど苦しくなるのです。厄介なものですね)ー腹筋のことについてわかったー支えのこともわかったではそれらを踏まえて私たちはどうやって「良い呼吸」をすれば良いのでしょうか。

私の中の答えはとてもシンプルです。「お話しする時のように、そして歌う時のように」です。ただし、オーボエを吹きながら「お話しするように、そして歌う時のように」です。先ほども書いた通り、オーボエはそのリードの吹き口が小さいことにより、基本的に息が余ってくる楽器です。吹けば吹くほどいらない空気が体内に溜まっていき、苦しくなって演奏が困難になってくるのです。では、いらない空気を体内にため込まないためにどうしたら良いのか?ブレスをする箇所を「吐くだけ」と「吸うだけ」に分けるのです。これは、それ用の練習をしないといけません。そしてうってつけなのがバロックの曲たちです。バッハやテレマン、ヘンデルなど休みや休符がとても少ない曲を選んで、そこで「呼吸をする箇所」をチェックして、その中で「吐く」「吐く」「吸う」といったタイミングを決めていきます。ギリギリまで吐ききって最後に新鮮な空気を吸うのです。例えば大きなフレーズが終わって次のメロディが始まるタイミングで「吸う」としたら、その手前の2回のブレスの箇所は「吐く」といった感じです。次の写真をご覧ください。※この方法は、休符や休みが比較的たくさんある曲では必ずしも必要ありません※

J.S.Bach Sonate g-moll BWV1030より第一楽章の冒頭部分です。赤でマークしたところが「息を吐くだけ」の箇所、青でマークしたところが「息を吸うだけ」の箇所です。私たちの体は、普段何も意識しなくても呼吸をおこなってくれます。息を吐き切って、息を吸う。この自然の動作と同じように、今度はオーボエを通してわざと「息を吐くだけ」の箇所を決めます。そうするといよいよ余った汚い空気は無くなって、体の自然な欲求として新鮮な空気を自然な形でとることができるのです。さらに良いことに、そうやって新鮮な空気を取り入れた私たちの体は、リフレッシュして元気になります。苦しくてしんどい状態から開放されて、新鮮な状態に戻り演奏を続けられるのです。この方法を知り練習し実践してみて、ずいぶんとバロックの曲たちが楽に演奏できるようになりました。
最後にもう一つ大事なことを。細かく分けてマークしたブレスの箇所、吐く時も吸う時も「アンブシュアの形」を保つように心がけてみてください。息を吐くと同時にアンブシュアを崩してしまうと、その部分の「支え」、さらには体の下の部分の「支え」も一瞬失われてしまいます。それらの支えをまた取り戻すためには数秒の時間がかかってしまい、特にバロック音楽の時などは次の演奏のタイミングに間に合いません。常に臨戦態勢でいることがとても大事になってきます。
「腹筋と呼吸と支えのこと」。なかなかに難しく、けれどとても大切なテーマでした。文章だけでは十分に伝わらないかもしれませんがみなさんもどうぞ試してみてください。
今日もありがとうございました。Viel Spass und Freude am musizieren!音楽に楽しみと喜びを★ (2019年11月14日)