今日のハプニング体験は、厳密にいうと私ではなく同僚に起きたハプニングなのですが、私もその場にいて状況を共有していたという事でお話ししようと思います。
かつて働いていたオーケストラの定期演奏会でドヴォルザークのセレナーデが一曲目というプログラムでした。オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン3、チェロ、コントラバスという編成です。同僚が1番オーボエで私は2番オーボエ担当でした。その定期演奏会のプログラムの内容はドヴォルザークに続く曲がゲストのシュテファン・シリ氏が演奏される「ルブラン・オーボエ 協奏曲」というスペシャルな曲たちでした。

1日目の公演を終えて2日目は隣町での本番です。そのオーケストラは2つの街を拠点としてどちらの街でも公演をするというもので、こう言ったスタイルはドイツの地方都市のオーケストラではよくある形態です。
2日目の夜、私は開演の40分ほど前に舞台に上がって音出しをしていました。しばらくして1番オーボエの同僚がやってきました。彼はいつもわりと直前に会場に来てチャチャッと音出しをしてピューと舞台に上がって素晴らしい演奏をする人です。その彼がその日に限ってなぜかオロオロと慌てた様子で近づいてきました。そして私に「Masako, いますぐ吹けるリードある?貸してくれない?」と。どうしたの?と聞くと「自分でも驚いているんだけど、今楽屋でケース開けたらオーボエが入ってなかったんだ、しかもリードも無い、空のケースだけ持ってきてしまった、珍しく家で練習してたら、楽器しまうの忘れてそのまま空のケースだけ持って来てしまった」と。。。
えええええ。と驚いた私でしたが、彼はもっと驚いているでしょうからとりあえず吹けるリードを渡してアンブシュアのウォーミングアップをしてもらう事に。もうすでに奥さんに電話して車で会場まで持ってきてもらう手はずなのですが、真冬で雪が降っています。さらに2つの街は大きな谷でへだたれていて到着するのは最短で30分後だ、とのこと。
もう本番の15分前です。とにかく楽器が到着するまでできる範囲で開始を遅らせるしかない、でも遅らせるにも限界があるぞ、曲の順番を変えたらどうだ?いや、2曲目の弦楽器はまだ来ていない人もいる、ダメだ、とワラワラしている舞台そでに、シュテファン・シリ氏がやってきました。どうやら事情を聞いたようで、「必要だったら自分が1番オーボエに飛び乗りましょうか?」と言われていたようです。さすがですね!
なんとも言えないオロオロとした、どうするどうするという空気の中、開演前のアナウンスで「技術上の問題から少々開始が遅れる」とあって15分ほど経ったでしょうか、ようやく同僚が自分のオーボエを持ってやってきました。この雪のふる寒空を、彼の奥さんは組み立てたままのハダカのオーボエを大事に抱えて雪が積もって凍っている道をそれはそれは慎重に運転してきたことでしょう。相変わらずオロオロしている同僚は冷え切ったオーボエを少しでも温めようとしていますが、周りがうながしてようやくそろって舞台に出て、どうにか無事にドヴォルザークのセレナーデを演奏したのでした。待っている間本当にドキドキしましたし、何よりよくぞ雪道の中、登り坂下り坂とカーブが続く道をハダカのオーボエを届けてくれた奥様の根性に感服しました。

このことがあってから、私は本番に向かうために家を出てからすぐ、ふと気づいて楽器の中身があるか、リードはあるか、全部持ったか、確かめたりするようになりました。家にいる時に適当に荷物を詰め込むと無意識でやっていることが多いので、家を出てからふと不安になってもう一度確かめたりするようになりました。同僚のおかげと言っていいかもしれません。あんなに寿命が縮むような経験はしたくありませんしね。
今日は私自身の体験ではなかったですが、みなさんもどうぞ忘れ物にはお気をつけください。特に、出先で買えるものなら良いですが私たちの使う楽器やリードや楽譜は代わりがきかないものですし。それではこの辺で。
今夜もありがとうございました。
Viel Spass und Freude am musizieren!音楽に楽しみと喜びを★ (2019年12月13日)