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言葉というアイテムを使ってどう相手に伝えるか①

文章、会話、単語、、、言葉は人と人がコミュニケーションを取るためにとても重要なアイテムです。言葉の選び方一つでストレスになったり逆に理解しあえる事もできる、言葉とは変幻自在のコミュニケーションアイテムです。

私たち音楽家は演奏中は音楽でコミュニケーションをとっているわけですが、それ以外にも仲間同士、同僚との円滑な問題解決などではやはり言葉のやり取りが必要になります。そして時に言葉の使い方によって隣の人を傷つけたりかえって演奏を困難にしてしまう事もあります。これはとてもデリケートなテーマなので私の経験をお話ししてぜひ皆さんにも考えていただきたいと思います。

「伝えたい内容は決まっている、それをどんな言葉を使って伝えるか」

これは音楽に限らずどんな場面でも言える事だと思います。そして私は演奏する時、オーケストラの中で吹く時、アンサンブルの仲間たちとあわせをする時、いつも気を付けてきました。ありがたい事に私がオーケストラで仕事を始めた時にとても尊敬するロシア人オーボエの先輩と一緒に働くことができて、先輩から本当に多くのことを学ぶことができました。演奏が素晴らしいのはいうまでもなく、さらに「どんな表現で言いたいことを伝えるか」という点において先輩のやり方はとても効果的なものでした。私は2番オーボエ兼イングリッシュ・ホルンのポジションで働いていましたが、どんな言葉をかけられたら効果的なのか、そしてそれに伴いどんな言葉かけがマイナスになるのかということも想像がつくのでした。

オーケストラの中で演奏しているとそれぞれのパートの役割、良い面、大変なこと、難しい課題が浮き彫りになってきます。そして指揮者からかけられる指示やコメント、管楽器や特に同じパートの同僚からかけられる言葉というのは当事者にとってとても大きな影響を及ぼします。褒められた時は良いとして、問題は否定的な事を言われた時です。

「音がうるさい」「低音の出だしがうるさい」

これらは2番オーボエが言われる事が多いだろうなと思われるネガティブなコメントです。2番オーボエに限らず他の楽器の特に2番ポジションで言われるであろう「ネガティブな表現」です。指揮者から言われると大勢の前で自分が否定され嫌な気持ちになりますし同じパートの人に言われると大きなショックを受けかねません。人は否定的な言葉を聞きそれが自分に向けられていると思うと身構えてしまいます。そして顔をしかめるかショックを受ける表情になります。この時点でその問題を改善するためには

「ショックから立ち直ってもしくは忘れて→何をどうしたら良くなるのか考え→その準備をして→実践する」

という作業が必要になります。素直にさっとできれば良いのですが、多くの場合否定的な表現を投げかけられたら良い気分はせず、すぐに改善するのはなかなか難しいものです。ではどういう言葉かけが必要なのでしょう。

私がオーケストラでの仕事を始めた頃、一番難しかったのは「いかに柔らかく静かに低音を鳴らせるか」「すぐにハーモニーの中に溶け込む」「耳をダンボにする」という事でした。特に一番目の課題「低音をいかに静かに」という点で、私が尊敬する先輩には自分が記憶する限り「うるさい、もっとピアノ(静かに)で」と言われた事がありませんでした。それは私が小さく吹けていたということではなく、吹けるように別の表現を使って言葉かけしてもらっていたのです。具体的には

「音量は大きくても良いから柔らかいイメージで」「色を想像して、どんな色の音色か」「息の流れをもうすでに先の方にイメージして」「そして吹き始め、音が出るところは滑らかに、優しく」と言った感じです。否定的な言葉は使わず「低音の静かな出だし」を可能にしてくれる表現です。このポジティブな表現をもとに実践することは、否定的な言葉かけから改善された演奏をしようとすることよりも何倍も何百倍も効果的ですし何より演奏が楽しくなるのです。もう一度最初にあげたネガティブな言葉かけと今度は同じ意味だけれど違う言葉を使った表現で比べてみます。

ー音がうるさい→音量のことは気にしなくていいから、柔らかい音のイメージと息の流れを先へ感じて

ー低音の出だしがうるさい→これも音量を絞りすぎることは考えず、柔らかくそしてスムーズな息のイメージ、さらに音の出だしを(タンギング)を滑らかに優しくスタートしてみる、どんな色の響きか想像する

と言った感じでしょうか。同じ音量でも、柔らかく柔軟性がある音は周りに混ざりやすいので耳障りに聞こえなくなります。低音の静かな出だしは小さく吹こうと思えば思うほど体が緊張して息がストップし爆発音的なアタックになってしまうので、息の流れを大切に、音量のことはあまり気にせず柔らかくイメージすることでこれも周りに溶け込みやすい音でスタートしやすくなります。

「伝えたい内容をどんな言葉を使ってどう伝えるか」いま一度考えてみたい事ですね。

今日はこの辺で、今夜もありがとうございました。

Viel Spass und Freude am musizieren! 音楽に楽しみと喜びを★(2020年1月24日)