前回の記事では「音程を合わせるとき、音を出す前に十分に想像力を働かせて意思のある音を出す」ということについてお話ししました。今日はそこからさらに発展して【同じ音でも同じでない】ということについてお話ししようと思います。
チューニングの音、音程合わせの音、だいたいがAやBの音だと思います。それらの音を出すことについて「意思、意味のある音」を出してみてくださいとお話ししましたが、これはAやBだけに限らず全ての音に言えることです。そして「全ての音に意味を持たせる」という事について、文章で書くのは簡単ですが、ではそれはいったいどういうことなのでしょうか。
答えは「一つひとつの音にはいろいろな役割があって、曲の中、メロディの中、和音の中で、その時の調性によって役割が変わってくる」という事です。例えば、私たちの目の前に二つの楽譜があるとします。どちらも「きらきら星」のテーマが書いてあります。一つは「ド」から始まるもの「ドドソソララソ ファファミミレレド」でハ長調の曲、もう一つは一音上がって「レ」から始まるもの「レレララシシラ ソソファ♯ファ♯ミミレ」でニ長調の曲です。この二つの「きらきら星」を歌ってみてください。できるだけ美しく、音と音の跳躍をなめらかに、キラキラした響きで。。。
みなさんとても美しくこの2パターンのきらきら星を歌われたと思います。では次に一つの音に注目してみましょう。両方の曲に出てきた「レ」の音です。ハ長調の場合は基本である音(根音)の隣の音、ニ長調の場合は基本の音(根音)であり最初に始まる音ですね。さらに詳しく表現してみますと「ハ長調の場合はテーマが進みまた基本の根音に戻る手前のお隣の音」そしてもう一つは「ニ長調の場合はそのテーマが始まる最初の音で基本の根音でありテーマの全体を通してレが鳴っている感じ」でしょうか。
ー基本の音に戻る手前の割とついでのような音だけど、終わりに導くためのきっかけになる音であり、なくてはならない大事な音
ーその短いテーマの間にずっと響き続けている大事な基本の音、その音で始まってその音に帰ってくる
どうでしょうか。同じ「レ」の音ですが、二つの異なった調性で歌う事によって、たった一つの「レ」の音なのにここまでキャラクターを変えて表現できます。みなさんが美しくテーマを歌われたものを表現しているのですが、ここまで大きく違う役割があります。これが「同じ音でも同じでない」という事です。ただ一つの「レ」に注目してお話ししましたが、突き詰めると全ての音にこの役割と意味を持たせる、私たちが意識するべき事だと思うのです。
では、それをどうやって実現したらいいのでしょうか。
私が思うに、役割といったいわゆる理論的なことを知っておくことはもちろん大事で、判断の材料にもなりますが、やはり「どう歌いたいのか」という事に尽きるのではないかな、と思います。単音楽器であるならなおのこと、一音一音を「あなたはどう歌いたいのか」強くイメージする、そしてそのイメージを表現してみる、これで良いと思います。あなたの言葉が楽器を通して流れてくるわけです。そして「歌に例えることで楽器を吹くにあたってまるで歌を歌うかのように演奏する」という事につながっていくのだと思います。ですから息を使う管楽器奏者にとって声楽の方の歌い方はとても参考になるわけです。音程の話はまだ続きます。今日はこの辺で。最後まで読んでくださってありがとうございます。
Viel Spass und Freude am musizieren! 音楽に楽しみと喜びを★(2020年3月28日)