美しいバッハの旋律が響き始めた瞬間、オーボエ奏者を襲う「あの音」。そう、「プルッ」という水滴音です。今回は、バッハ作曲オーボエ・ダ・モーレ協奏曲の本番中に演奏台無しのピンチを迎えた私が、あのアニメの奥義でどうにか切り抜けたお話です。

先日(2026年1月24日)岡山県立美術館ホールで行われた「美と祈り展・ミュージアムコンサート」でのこと。このコンサートの詳細はこちらをご覧ください↓
続きです。精神を研ぎ澄ませ、バッハの神聖で美しい旋律を奏で始めてわずか数小節後、その音はやってきました。
「プルッ」
運指でいうGisキイに水が溜まり、音が震えプルってしまったのがわかりました。ここで、舞台袖からみた様子(23秒ごろ)です。(仁熊さん撮影ありがとうございます)
「よりによって今ーー!オクターブキイはちゃんとメンテナンスしてもらったのに、これまで一回も問題が起きなかったキイに水が!!」と狼狽えつつも演奏は止められません。スワブを通すどころか息をキイに吹きかける休みもないがなんとかこの「プルッ」を抑えたい。そんな状態で私の脳裏に浮かんだのは、「スラムダンク」の桜木花道でした。これをいま応用するしかない。

圧倒的なスピードで相手の進路を防ぐ「フンフンディフェンス」。ゴリのシュートを食い止めようと花道は高速移動ディフェンスをしています。その掛け声が「フンフンフンフンフン」です。
私は息の圧力をさらに高め、Gisキイから「フン!」と勢いで音を鳴らし水滴を飛ばそうとしました。Gisキイはおさまったように感じました。すると今度は運指のAキイから「プルッ」
おいおいおいーーーお隣のキイですかーーー。そこからは更に全ての音に「フンフンディフェンス」を実行しました。上管の何処のキイからも水は来させないわよ!
作戦:全ての音を「えい!」という圧で鳴らし、どこに潜んでいるかわからない水滴を息圧で飛ばします。
見た目:流れるような美しいバッハを吹きながら、中身はフンフンディフェンス。
結果:最初の数音こそ犠牲になったものの、残りの旋律はなんとか乗り切りました。本当は儚げで美しい旋律をしなやかに消え入るように演奏するつもりが「なんだかとても踏ん張りのあるしっかりした響きの第2楽章」になったと思います。
「フンフン」から学んだ大事なこと
この「フンフンディフェンス奏法」、実は単なる力技ではありません。やってみて気付いたメリットが2つあります。
①息の圧力が充実する→水を飛ばそうと必死になることで、うっかりすると甘くなりがちな「息の支え」が強制的にマックスになります。楽器の可能性を最大限に引き出す息の圧力が、期せずして実行できるのです。
②緊張しにくくなる→「緊張して指が震える」「支えを感じられなくなる」と言っている場合ではありません。「水を飛ばす」という物理的なミッションがあるおかげで、余計な雑念が消えてメンタルが安定します。
教訓:日々のメンテナンスが大事なのは百も承知の上で本番中に楽器の中、特にキイに水が溜まったら、そしてそれを掃除する時間が無いのなら、それは「もっと息の圧力を」という合図、とポジティブに捉えてみるのはどうでしょう。
ちなみに、演奏後すぐに楽屋で確認したところまだGisキイには水が少し溜まっていました(クリーニングペーパーに水が付着した)。普段から気をつけていましたしオクターブキイは問題なく、、、という状況だったので今回は不可抗力です。


バッハの繊細な世界観と、桜木花道の泥臭いディフェンス。一見相容れない二つが融合したとき私の演奏は救われたのでした。もし皆さんも演奏中に「プルッ」が起きたら、そして水抜きをする時間が無いときは心の中で花道の「フンフンディフェンス」を再現してみてください。息の圧力は充実して音がしっかりと鳴り、ついでに重心を低く感じられ緊張も和らいでくるかもしれません。
久しぶりのブログ記事更新となりました。最後まで読んでくださってありがとございます。
Viel Spass und Freude am musizieren! 音楽に楽しみと喜びを★