5月も早いもので半ばに入りました。今日は雨がずっと降り続くお天気のようです。こんなときはゆっくりと音楽観賞などいかがでしょうか。今日は私が最も尊敬するオーボエ奏者の演奏動画を皆さんにご紹介したいと思います。その前にドイツ留学生活の記憶を少し。
私がドイツの音楽大学で勉強していた頃は、私ともう一人の日本人オーボエ学生の二人が久しぶりの日本人オーボエ留学生だったようです。周りはドイツ人、ロシア人、韓国人、台湾人、中国人、実に様々な国籍のオーボエ学生たちが切磋琢磨していました。私たちはいきなりドイツ語の洪水の中に放り込まれて、毎朝、隣町の語学学校に電車通学し、帰ってきたら宿題をすませ午後には大学のレッスンを受け、夜は大学が開いている0時まで練習やリード作りをして真夜中に帰宅して泥のように寝る、という毎日でした。渡独したのが秋〜冬の時期だったのですが、早朝に家の外に出ると、ジーンズが「パリッ」と凍ってしまっていたのを良く覚えています。その頃は朝など−12〜14度あたりまで冷え込むことが普通でした。晴れが多く雪も滅多に降らない温暖な岡山から来た私にとって、ドイツの寒く暗く長い冬は最初の試練でした。
そんな中、教授のレッスンを受けるだけでなくクラスのたくさんの先輩たちに教えてもらった事、これが私にとってその後の音楽人生の大きな財産になっていると思います。教授のレッスンは準備万端でプラスアルファの事を学びにいく、それまでにわからないことや、できないこと、苦戦していることなどは、周りの先輩たちに教わっていました。というか、皆さんとてもお節介(苦笑)な人たちばかりでしたので、こちらが頼まなくても練習室に入ってきて「ここはこうすればいいんだ」「あいつ(他の先輩)はどう言ってた?けど自分はこう思う」などなど、新人後輩の自分に教えてくれると同時に、ライバル視している先輩たち同士も様子を伺っている、そんな感じがバレバレの、なんともおかしい、けれど物凄く学びの多いクラスでした。
そんな数多くの強者先輩たちの中で、私が最も尊敬し最も多くのことを教わった先輩が演奏している動画を最近見つけました。私はドイツの音楽大学で、教授とその先輩とオーケストラの先輩にほぼ全てのことを学んだと思っています。それぐらい自分の音楽人生にとって大きな影響を与えてくれた方達です。その先輩は今は母国ロシア・St.ペテルブルクのオーケストラで活躍されています。こちらがその演奏の様子、C. P. E. Bachのトリオ・ソナタです。
この演奏を聴くとわかるのですが、オーボエの奏でる「音」にどれだけたくさんのニュアンス、色、キャラクターがあるのだろうかと感嘆します。更に空間に溶け込んでいくかのようなピアニッシモ。そして室内楽メンバーの方達も素晴らしい。違う楽器が限りなく同じニュアンスで、響きで、言葉で音楽を語り合う様子が手に取るようにわかります。フルートとオーボエは同じ木管楽器ですが全く違う作りで出てくる音も、音色も違います。各楽器とも違う音色でそれぞれがもっている特徴が大きく異なり、その上で一つの曲を仕上げていき、響きや勢い、テンションや全体的な音色を揃えていく作業が大変なので、私は「木管五重奏」が一番難しい室内楽の編成だと勝手に思っています。そんな中、この演奏でもわかるように、フルートとオーボエのニュアンスは限りなく近くなり、言葉と音色がおり混ざって素晴らしい響きになっています。それをチェロとチェンバロの方々が美しく優雅に彩る。ぜひ聴いてみてください。
今の大変な状況であらゆる音楽活動が制限されている中でこうして映像に残されている素晴らしい演奏を聴ける、観られることはとても貴重だと思います。と同時に、早く皆さんと音楽の楽しみを同じ空間で共有できる日がくることを願ってやみません。最後まで読んでくださってありがとうございます。
Viel Spass und Freude am musizieren! 音楽に楽しみと喜びを★(2020年5月16日)