以前(2020年3月17日)ブログの記事で「支え」についてお話ししてきました。オーボエを演奏するときに大事になってくる「支え」はどこなのか?「床と接している足の裏」「丹田という下腹にあたるところ」「アンブシュア」が私なりの答えなのですが、今日はこの3つのポイントについて「なんでその場所なのか」「どうやって支えにするのか」ということを一つずつ詳しくお話ししていこうと思います。まず最初に「アンブシュア」についてです。

ある程度オーボエを吹いてきている方はお分かりになると思いますが、私たちは普段オーボエを吹くときに「無意識にアンブシュアを調節」しています。アンブシュアを調整しているということは「リードに対する圧力を変える」ということであり「リードのみで出す音が2〜3種類」あるということです。「音の高さ」や「音量」によって2〜3種類のポジションを使い分けていると言えるでしょう。

これは私がドイツの音楽大学に来てからはっきりと意識するようになったことです。どういうことかというと、「リードだけで出す音の高さは3種類ほどあって」「音域や音量などによって吹き込む圧力を変えていく」ことです。アンブシュアの加減やその人の息の圧力によって多少差は出てくると思いますが、私は次の図のように三つの音を出せるようにしています。図の真ん中にある五線譜に書いている H, Cis, Dis です。

そしてこの3種類の音を「だいたい」どの音域で使い分けているかと言いますと先ほどの図で一番上にあたる五線譜をご覧ください。それぞれの音域(音符)によってリードでどの音(H, Cis, Dis)を出しているか、すなわちどの程度の圧力とスピードをかけているか書いてみました。

更に、上の図の一番下にあるように、音域だけではなく「低音域のppなどは一番音程が高い dis の音が出るような圧力で吹いている」と言えるでしょう。低音のppは音程の高い音が出る圧力のアンブシュア、すなわち低音のppは「とても凝縮されて圧力が高くそして少ない息の量で」出しているわけです。どうしてこの3ポジションが大事になるのでしょうか?どうして吹き分けているということをわざわざ意識する必要があるのでしょうか?

一番初めに書いた通り、オーボエをある一定以上の時間吹いてきた方は自然にアンブシュアの圧力(息の圧力)を変えて演奏していると思います。いちいちどのポジションのアンブシュアで吹いているとは意識していないと思います。それをわざわざ意識することによって、「ここが大事な支えの一つのポイントなんだ」と感じられるようになります。更に日々の練習の中で、この「リードだけで音を出す練習」を組み入れることによって、よりはっきりと3つのポジションを感じられるようになり「安定したアンブシュアのポジション→よりどころとしての支え・ポジション」になっていきます。これはとても大事なことだと思うのです。

例えば、本番で緊張してしまった時、私たちはどの部分に頼りなさ(不安・不安定さ)を感じるでしょうか?私の場合は3つの支えである「足の裏」「お腹の下の丹田」そして「アンブシュア」です。この大事な3つのポジションをきちんと意識でていない/十分にトレーニングできていない状態で緊張するとそこから順に不安定になり支えを失っていき、演奏が困難な状態に繋がっていきます。だから、3つの支えを意識する必要があるのです。更にアンブシュアに関してはトレーニングすることがとても大事になります。

アンブシュア(リードを支える力)をトレーニングすることによって、緊張した時でも支えを意識してしっかりと保つことができて、安定した演奏が可能になってくるわけです。これは私が実際に経験してきたことです。実際に支えを失って演奏もボロボロになり、なんでこうなったんだと悩んで色々と教えてもらって試行錯誤して自分なりのやり方を見つけて、実践を重ねてきていまこうして自信を持ってお伝えできることなのです。ではどうやってアンブシュアをトレーニングすれば良いのでしょうか。

リードのみで3つの音程の違う音を出すのですが、もちろん指でリードをつまんで支えてもかまいません。そして基本は「シ」の音から始めます。そこから上の音に上げていくのですが、ここで大事なのは「アンブシュアの形自体はほぼ変えない、鏡で見るとわずかに唇の周りの筋肉が動くぐらい」です。ほとんど目には見えないわずかな変化で音程を変えるのです。なぜなら、だんだんと慣れてきて速いパッセージなどを吹く時、アンブシュアの形を変えすぎていると音の変化の速さについていけなくなり、チグハグになっていくからです。あくまで「ほんなわずかな力加減、圧力加減で音を変えていくことが大事」なのです。

そしてこれもまた大事なのですが、基本の「シ」の音がでたらそれより音程の低い音を出す必要はありません。「基本のシの音」より音程が低くなるアンブシュア(圧力、息のスピード)は実際には演奏の中で使わないからです。もし基本の「シ」よりも低い音を出す癖がついてしまうと、リードを楽器につけて演奏した場合、「ことごとく音程が低い、ぶら下がってしまう」症状が出ると思います。人それぞれ口の形や圧力によって多少の差は出てくると思いますし、基本の「シ」よりもわずかに低い音を「基本の音」とする場合もあると思います、それはそれで構わないので、その「基本の音より低い音をアンブシュアのトレーニングとしての音」に使う必要は、私はないと思います。

そうやってトレーニングすることによって3つのポジションをつかんでいき、実際に楽器と一緒に吹いたときには音域によってどのポジションだな、と意識しながら「一音、一音、いちいち確認しながら」吹いていく必要があります。最初はゆっくりでしか吹けないでしょう。けれど、それを続けていくことによって、「アンブシュアが鍛えられる」「リードを加える力、アンブシュアの持久力が鍛えられる」「それぞれの音を自然にポーンと当てはめられるようになる」ことが可能になります。時間はかかりますが徐々に慣れてくると速いパッセージもそれほど意識しなくても吹けるようになります。結果的にはとても合理的でわかりやすい吹き方で、しかも「何をどうやって、なぜやっているのかわかっている」ということは、緊張したときにも「失わないですむ、頼り甲斐のある支えのポイントの一つ」として心強い見方になってくれます。
なかなか文章と図解/写真だけではわかりにくいと思います。けれど今日のテーマはオーボエを演奏するにあたって、基本中の基本であり、とても大事なことであり、意識して鍛える必要があることだと私は思うので、お話しさせていただきました。今日はこの辺で。最後まで読んでくださってありがとうございます。
Viel Spass und Freude am musizieren! 音楽に楽しみと喜びを★(2020年5月21日)