この夏、美術館のギャラリーでコンサートを開催しました。全てバロック音楽のプログラムで我ながらなかなか挑戦的な内容でした。そういう時に使うリードは、いつにも増して良い状態でないと納得できる演奏が難しいばかりか、演奏困難な自体にもなりかねません。結果から言うと、かなり納得のいく演奏会になりました。
演奏会や本番に向けてどういうことに注目してリードを作っていけば良いのか、どうやってリードを良い状態に持っていけば良いのか、、、。大きなテーマですが少しずつお話ししていきましょう。この回は自分でリードを作っていく場合です。(ただし、細かい作業の説明ではなくどんな感じの流れで何に気をつけるか、という内容です)


私の場合、本番のだいたい2週間前から作り始めます。巻き上げて荒削りの状態から始める(あらかじめ巻き上げたリードはまとめて用意しておく)と良いですね。メイキングマシンを使いますが厚めに残しておきます。そこからスタートです。その先は少しずつ手削りをして音が鳴って音程が取れるようになったらどんどん吹き込んでリード自身が変化していくことも踏まえて育てていきます。ここで大事なポイントがあります。


一度に複数のリードを仕上げて本番に備えようとするよりは、定期的に少しずつ、例えば毎日1本ずつリードを半完成にしていき吹き込んでいきます。それを積み重ねることで「リードとしてのピークのタイミングをずらす」ことが可能になります。結果、1週間前〜数日前にはピークを迎えるタイミングが少しずつ違ってくる10本弱ほどのリードがそろうことになります。いくら良い状態のリードでも全てのリードとそのピークが本番の1週間前に過ぎてしまったら意味がありません。また、全てのリードがピークを迎えるよりずっと前に本番になってしまったら未完成のリードを吹くことになり、これも意味がありません。



最終的に、数本あるリードの候補から今日はこれが1番状態が良いので本番用に選んだ、というのが理想的な状態です。
少し時間を戻って1週間前です。この辺りからは本番の候補になりそうなリードたちをひたすら吹き込んでいきます。通し稽古です。今回演奏したバロック音楽の特徴は休符が少なくひたすら吹き続けるということです。ですので何度も何度も通し稽古をして持久力やアンブシュアを維持する力を鍛えて自分の息のペース、自分の状態の変化を知ってレベルアップしていきます。通し稽古をしていく中で劣化してしまったリードは「そこまでのレベルだった」と思うようにしています。むしろ「そこまでのレベルだったリードを本番用として選ばなくてよかった」と思うことができます。


3日前ぐらいになると、だんだんリードの候補は絞られていきます。3本から5本といった感じでしょうか。ここで私が大事にしていることですが「抜群に良いと思うリードでも、毎日少しだけ吹いておく」というものです。リードは自然のものです。毎日変化しています。抜群に良いと思ったリードでもそれなりに変化はします。その変化に驚かないためにも、「毎日少しだけ吹いておいて状態を確認し安心しておく」と良いと思います。
私の場合、1日前になっても本番リードはこれ!と決定できる時はまれです。その理由は私自身がリードを作っていて比較的多くの候補を保持できること、直前までリード調整ができることが大きいと思います。これらを踏まえて当日のリードの調子、会場ではどのリードが一番吹き心地が良いか、で決めるようにしています。
ここでとても大事なことがあります。



「どのリードが一番良い音かではなく、どのリードが今日の自分にとって一番吹き心地が良いか」という観点です。実際のところ、候補になったリードは似たり寄ったりのものであると思われます。会場で聴こえるリードの音にそこまで大きな違いは現れにくいです。何が一番良くわかるかというと、演奏者が自由に演奏しているかどうかです。
デトモルト音大時代に室内楽の仲間であったファゴット奏者(今はケルン・ギュルツェニッヒ歌劇場/オーケストラの奏者です)の卒業試験でプーランクのトリオとファッシュのトリオソナタを一緒に演奏しました。ホールでのリハーサルで私は2本のリードを取り換えて吹いてファゴットの教授にどちらのリードが良さそうか聞きました。教授の答えは「音自体にそこまでの違いはない。大事なのは君がより心地よいと感じるリードを選ぶことだ」と。全くもってその通りです。今日のお話のまとめです。

★本番数日前は良いリードを温存しすぎるのではなく毎日少しだけ吹いて状態を確認する
★特にバロック音楽を演奏する場合は、通し稽古が大事でそれに機能的に耐えられるリードが本番リードの候補になっていく
★当日、会場でリードを決定する場合は良い音というよりも自分が最も吹いていて心地よい、自由だと感じるリードを選ぶこと
今日はこの辺で。最後まで読んでくださってありがとうございます。
Viel Spass und Freude am musizieren! 音楽に楽しみと喜びを★