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【リード】どれぐらい時間がかかるのか(かけるのか)?

リード製作と販売、そしてリードレッスン、そういった場ではオーボエを実際に吹いている人と接するわけですが、演奏をしたりリード作りについて説明などをする場面になるとよく聞かれる質問があります。

「リードって完成するまでにどれぐらい時間がかかるんですか?」という内容です。

その時いつも答えているのが「はっきりとはわからない」です。変に思われるかもしれませんが本当にそうなんです。オーボエリードは丸材から作るとしたら、いくつもの工程があってその度に使う機械や道具が違ってきます。大まかにいうと、薪割り→カンナかけ→シェーピング→糸巻き→メイキングマシンかけ→ナイフで調整→試奏+完成、という流れになりそれぞれの工程で使う道具が違うため、効率のことを考えて一つの工程でいくつもまとめて作っていくことになります。ですのでただ一本のリードを一番最初の丸材から完成リードまで一気に仕上げるということをした事がないのです。

私の場合は、上に書いた工程表の中の「メイキングマシンかけ」の段階まで終えたリードたちをできる限り多く作っておくようにしています。そしてその先、ナイフを使って手作業でリードを完成させていく段階で何日かに分けて仕上げていきます。これは私のやり方であって、すぐに仕上げて演奏できる状態にまで持っていくやり方もあります。人それぞれです。何が正解というのはありません。なぜなら、私たちが相手にしている材料(ケーン)は自然のもので強さや張り、密度に大きな違いがあり、その違いによってどれぐらい時間をかけて仕上げていくかの尺度や選択肢が変わるからです。ただし大事なことは、材料の性質によって正しい選択をすることです。

比較的柔らかい材料の場合は、反応も良く、わりとすぐに機能して音が出るのでメイキングから少し手直しをしてすぐに吹けるリードに仕上げる事ができます。その日のうちに仕上げたリードで夜の本番を演奏することも可能でしょう。ただし、その夜使ったリードは次の日には大きく変化している事が多いです。急激なストレスで素早くピークを迎えたリードはパフォーマンスの後は急激に劣化していきます。けれどもそれを承知で作って使えば良いわけです。

比較的強い材料を使うときは、メイキングマシンをかけた後にしばらく置いておき、その後少しずつナイフで薄くしていき日数をかけて仕上げていきます。こうやって一文で書けばとても単純明快な感じがしますが、それは昔自分が味わった手痛い経験から学んだ結果でもあるのです。

大学生の初めの頃、まだ本格的なリード作りを習いたての時のお話です。学校内のオペラ公演があり、モーツァルトの「コシ・ファン・トゥッテ」の2番オーボエ として乗っていた私は、公演日の前日夜になっても本番で使えるリードが出来ずにいました。焦って何本も作るのですが一向にうまくいきません。夜中になってようやく使っている比較的強い材料の中からどうにか良さそうなリードを準備する事ができました。さて、公演当日になったのですが、本番は散々たるものでした。強すぎる材料を大急ぎで完成させたため、急激な変化によってコントロールが効かないリードになっていたのです。吹けば吹くほど抵抗感は増すし、そうなると低音のピアニッシモなど綺麗に出るわけがありません。音が出ないか、出たとしても爆発音か。。。本当に穴があったら入りたかった、そんなとても恥ずかしい、悔しい、悲しい、ショックな感覚がトラウマとして残りました。ここまで手痛い経験をしてしっかりと学びました。

それは【リードは時間をかけて段階を経て丁寧に、忍耐を持ちつつ仕上げないとダメなんだ】という事です。ましてや強めの材料を使うときはなおさらです。メイキングマシンである程度厚さを落としておいた状態でしばらく寝かせておく。そしてナイフによる手作業で振動がして音が出るところまできたらその日は終わり。次の日はそこから一歩進んで音が出る段階から「音が楽に鳴らせる状態にする」そしてその日は終わりです。次の日、3日めにもう一度試し吹きをして前日と大きく変化しているようならば修正をしますし、手直しが必要ないようであればその時点で完成です。次の日、4日めには修正したリードをもう一度試し吹きして最終チェックをして完成です。なので、私のやり方ならば完成の一歩手前から仕上がるまでは3日〜4日かかるわけですね。けれどもそうやって強い材料に対して少しずつ手を加えてあげて時間の経過とともに状態をチェックしてさらに修正をして、と時間をかけてあげると、最終的にはリードが長持ちするのです。

これは、私のやり方であって、実際私は強めの材料を使用しているので時間をかけて完成させていますが、上にも書いてあるように、比較的柔らかめの材料を使うやり方、仕上げ方ももちろんあります。人それそれです、要はうまく機能すれば良いのです。何が絶対的に正しいというやり方はありません。ただし、柔らかめの材料ならこう、強めの材料ならばこう、という方法の正しい組み合わせを判断するというのが大事になってくるわけですね。それを間違えると、私のように「穴があったら入りたい」思いをしてしまいかねない、というお話とそこからしっかりと学んだ、というお話でした。皆さんもどうぞお気を付けください。

今日はこの辺で、今夜もありがとうございました。

Viel Spass und Freude am musizieren! 音楽に喜びと楽しみを★(2020年2月9日)