前回に続き、今回もエチュードのお話です。皆さんは、日々の練習の中で「音階(スケール)練習」をどれぐらい行っていますか?今回は、音階練習って実はとても意味のあるものだよ、ということについてお話ししようと思います。

かつて、ドイツ・デトモルトで長年にわたって一緒に活動してきた室内楽のメンバー。その中のフルート奏者がいつも練習していたエチュードがあります。猛スピード、それこそ目にも止まらないような速さで練習していたのは「タファネル&ゴーベール著17のメカニズム日課大練習」。フルートの方々はよくご存知だと思います。それ以外の方々には、何だか凄そうなタイトルの教則本、、、という感じですね。

このエチュードの中にある「全ての調性を網羅した音階練習」という項目があります。それを件のフルート奏者は猛スピードで吹きまくっていました。何だかよくわからないけど凄い、と思った私はそのエチュードを真似して購入し、音階練習の部分を練習しまくりました。とてもあんな豪速球のような速度では吹けませんが、その代わりにとても丁寧に、美しいレガートで、滑らかな音の変わり方で、スラーのみで練習し続けました。

そのうち、全ての音階を暗譜で吹けるようになりました。(このブログを読んでいる方の中で、日常的に「シャープが6つの音階(Fis-Durやdis-moll)を練習するよ!という人はどれぐらいいらっしゃるでしょうか。)しばらくすると思いがけない場所でその効果が現れるようになりました。
オーケストラや吹奏楽の楽譜には時として「え、これ何調??」というような不慣れな音階のような部分が現れてくることがあります。そういった箇所が割と自然に、違和感なく吹けるようになったのです。別の例では、例えばFisから始まる長調の音階をパッと吹けるようになります。Gisから始まる短調の音階もすぐに吹けます。楽譜も見ず、しかも調性感のある音の並びで。


ここで強調したいことは、FisやGisから始まる長調や短調の音階が暗譜で吹けることが大事ということではなく、ふと決めた音から始めた音階がとても美しい調性感のあるメロディで演奏できるということです。楽譜に書いてある「音」を凝視して音の連なりとして吹くのではなく、きれいな、なめらかな音階としてです。
色々な効果が認められる「音階練習」で、私のイチオシのエチュードです。ここで補足になりますが「このエチュードは私個人の見解でお勧めしているもので、唯一無二の正解というわけでは全くない」ということです。私の場合は指の動き、テクニックを強化したいという理由でこのエチュードが効果的と判断しました。ご自身が苦手だと思う項目は何なのかわかると、それに応じたエチュードがわかってきます。

少し前なのですが、新しいオーボエを購入しました。割れを防ぐために1日のうちに吹く時間を少しずつ増やしていきました。お互いのことがまだよくわからない状態で、しかも制限のある時間内で、どんな練習が効果的なのでしょうか。
私は、今回ご紹介した「タファネル&ゴーベールのエチュード」の中にある音階練習だと思います。ただし、とてもゆっくり、丁寧に、レガートで吹いていきます。スタッカートや様々なバリエーションのアーティキュレーションはとりあえず置いておいてとにかく美しいレガートに集中するのが良いと思います。美しい音程、滑らかな音の連なり、綺麗だと思う音色、柔らかな指の動き、、、これらに集中してひたすら音と音階を作り上げていきます。これが私が考える最高の楽器の吹き慣らし方です。

新しい楽器だけに有効な話ではもちろんありません。今お使いの楽器に対しても、改めてちゃんと向き合う良い機会、そしてあなた自身の演奏技術の向上につながる良い機会だと思いますので、ぜひ試してみてください。3回続いた「エチュードについて」のお話はここで一旦終わりになります。今日も最後まで読んでくださってありがとうございます。
Viel Spass und Freude am musizieren! 音楽に楽しみと喜びを★