私はドイツの音楽大学の学生時代に木管五重奏のグループを組み、ピアニストも加えて10年近く一緒に活動してきました。私の音楽人生において、この仲間たちと築いてきた経験はとても大きな財産になっています。今でもあらゆる場面でその時の経験や知識が役に立っています。今日はその室内楽の魅力についてお話ししようと思います。

室内楽には色々な形があります。弦楽四重奏、金管五重奏、クラリネットカルテット、サクソフォンカルテットなどなど。木管五重奏はその中でも特異な形式といって良いでしょう。他の編成と違って、フルート、オーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴット、と一つ一つ全く性質の違った楽器が集まったものだからです。各楽器がそれぞれの事情を抱えてグループとしての音程や響き、音色を合わせるというのが難しいとも言えますが、逆にそれが楽しい面でもあるのです。

お互いの楽器の事情を良く知ることで色々な発見もできてとても勉強になります。特に、オーケストラのなかで演奏をする際に木管五重奏の経験があればとても役に立ちます。私が長年取り組んできたアンサンブルで録音をした音源があるのでぜひ聴いてみてください。ベートーヴェン・ピアノと管楽器のための五重奏曲です。これはピアノ、オーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴットのための曲で、この種類の編成の曲の中で傑作とされています。※全楽章は約25分かかりますので、ぜひ時間がある時にゆったりした気持ちで聴いていただけたらと思います。

ベートーヴェン・ピアノと管楽器のための五重奏曲 作品番号16
この曲はピアノを中心としてテーマが始まりその後を4つの楽器が入れ替わり立ち替わりメロディを奏でたり、背景に回ってみたり、曲が進んでいく中でどんどん役割が変わっていき、そのたびに音量を落としたり目立ってみたり4つの楽器が同じ響きを目指したり、とにかく色々な要素が楽しめる曲です。それぞれに違う特徴を持った楽器たちだからこそ、それぞれの楽器が目立った時に聞こえる響き、そしてみんなが寄り添って奏でた時の響き、様々な色を味わえるそんな曲です。それではまず第一楽章です。
続いて第二楽章です。ピアノが奏でる主題、それに応えるように一つの楽器がピアノに続いてメロディを引き受ける、そしてまたピアノの主題に戻りますが、毎回ピアノパートは音を増やしていき、華やかになっていくバリエーションを楽しむことができます。個人的には一番大好きな楽章です。
最後に第三楽章フィナーレになります。軽快なピアノの主題に続き4つの楽器たちが引き受けていき、テンポもテンションも保ったまま音楽は流れていきます。
いかがでしたでしょうか。わたし的には、この曲は壮大なシンフォニー、オーケストラの縮小版、そんな感じがします。そしてこの曲を作り上げていくなかで、そして録音をしていくなかで難しかったのが「みんなが極限まで音量を落としていくなかで自分もそれに合わせるが、音色の質は保ったまま」ということでした。

例えばクラリネット(↑写真のクラリネット君はめちゃくちゃ美しくて柔らかいp, pp, pppを出すのが上手かったです)は極上の小さな音が出せる、消えることができる、始めることができるのですが、それをオーボエでやろうとするととんでもなく難しくなります。それでも極限まで近づいていき、音色も寄り添い、ニュアンスも寄り添っていく、それを可能にしていくのは、ひたすらに自分の音も聞きつつ、相手の音、周りの音に耳を傾けることです。そして全員でひそやかなダイナミックにする時、またある時は全員で大きな広がりのある響きを作る時、その際にも耳を大きく開いて大きな空間から自分たちの音を聞くことが大事になります。

こういった取り組みで私たちの耳は確実に鍛えられていきます。そしてアンサンブルの楽しみを味わうことができ、さらにスケールが広がってオーケストラの中で演奏するときもこのアンサンブルを通して鍛えた耳の力は必ず役に立ちます。今回のお話は最後の方で【音程】について少し触れましたが、次からはもう少し詳しく【音程】についてお話ししていこうと思います。今日はこの辺で。最後まで読んでくださって、聴いてくださってありがとうございます。
Viel Spass und Freude am musizieren! 音楽に楽しみと喜びを★(2020年3月14日)