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【独歩(独での歩み)】私とドイツとリードの話⑤

ちびっ子オーボエプレーヤーたちに合う「鼻息リード」をどうにかこうにか作っていく中でリード作りを本格的にするならば色々なタイプに対応していく必要があるということを学び始めた私です。今回は少しリードのお話から離れて、長年働いてきたオーケストラを通じて私が学んできたことなどをお話ししましょう。

かつて働いていたオーケストラの同僚から私は本当に多くのことを学びました。まずは「同じことを伝えるのでもどんな言葉を使うかによって相手を活かすことも潰すこともできる」ということです(【独歩】私とドイツとリードの話③で詳しく触れています)。毎日顔を突き合わせて音楽を作っていく同僚ですから、性格が合わない、仲良くできないというのは苦痛でしかありません。そんな例を多く見てきて(お互いに文句を言い合ったり、病欠になったり...)思うのですが、たとえ言語が通じなくても音楽が共通の言葉になる!などと言われることがありますがそれは演奏中だけの話だと思います。それ以外の時にはやっぱり「ことば」でコミュニケーションを取るわけなので人間的に認め合える、尊敬し合える関係でないと心が壊れていってしまいかねません。

次に学んだことは「周りの音、特に隣のオーボエの音のテンションに自分の音のテンションも合わせる」ということです。音の高さだけを合わせにいこうとするとゴール地点の範囲がとても狭くなって返ってあいにくく(あっていないように)聴こえてしまいます。音の高さだけでなく「音の勢い」「色」「息の集中ぐあい」要するに「音のテンション」をあわせることによって音程が合うだけでなく音とその周りの響きもあってきます。それを可能にするために自分で出来ることの一つに「リードのみのピーピー音/ ピープセン/Piepsen」があります。これは言葉だけで表現するのは難しいですが、私が学んできた大事なことの一つです。

次に学んだことは「本番での失敗は一瞬(少なくとも舞台上では)で忘れ去って次のことに集中する」です。ある年のニューイヤーコンサートで歌劇「カルメン」のワンシーンを演奏しました。イングリッシュホルンの大きなソロがある部分です。何の前触れもなく一つの音を半音違えて吹いてしまった私は、どうにかソロを吹き切ったものの目の前のピッチカートを弾くチェロの同僚たちの肩が(気のせいかもしれませんが)揺れているように見えたりしてさらに動揺し恥ずかしいやら情けないやらでかなり自分に腹を立てていました。

休憩になっても相変わらず怒りモードになっていた私に、同僚のMが近付いてきて「Masako、この本番はあと何回もあるんだよ、さっさと忘れて次のことに集中しよう。演奏者が舞台に上がる前に、熱があろうが腹が痛かろうが怒ってようが泣いてようがそんなのお客さんには関係ないんだよ。舞台に上がった“演奏者としての”自分たちを観に来てくれてるんだから」と言っていました。

当たり前のことかもしれませんが、失敗は誰しもする可能性があります。問題はそれが起こった時にどう素早く対処するかということなんですね。なし崩しに壊れていくのか、気持ちを切り替えてもっと良い演奏に持っていくのか...どちらが良いかは言うまでもないと思います。

挙げると終わりがなくなるので最後にもう一つだけ。私はオーケストラでは2番オーボエ兼イングリッシュホルンのポジションで仕事をしていました。それと同時にあらゆる形態での演奏活動も続けていました。室内オーケストラでは首席、木管五重奏、ピアノを含めたアンサンブル、民族音楽アンサンブル... 形が変わるとその都度意識も感覚も変わり色々な面で良い状態を保つ必要があります。移動やスケジュール調整など本当に大変で長年続けることは無理だと思いましたがやっていて本当によかったと思います。

そしてこの活動が今にも活きていると感じることがあります。オーボエリードを注文してくださるお客さまは色々な活動形態でオーボエを吹かれています。その色々な演奏形態を私自身も経験してきているのでお客さまたちの言葉がよくわかるのです。するとオーボエリードの完成にもとても役立ちます。

【独歩】私とドイツとリードの話⑤、今回はオーケストラで働いてきてという内容でした。次回からは再びリード作りの話に戻ります。オーケストラの仕事から今度は音楽大学でリードレッスンを始めることになって....

今日も最後まで読んでくださってありがとうございます。次回どうぞお楽しみに!